こんにちは。本サイト運営者の岡崎と申します。本シリーズでは、【入門・専門】のレベルに分けて、国際政治学という学問分野について、また、国際政治領域の最先端でどのような研究成果が出されているのかを解説していきます。
みなさんは、国際関係や政治学を勉強していて、結局何が言いたいのかよく分からないという終着点にたどり着いたことはありませんか。私は何度もあります。そんな国際関係・国際政治の「落とし穴」を回避するために、いくつもの罠に引っかかっては乗り越えてきた筆者の理解を私なりの言葉でまとめていくのが本シリーズです。
国際政治を理解するために、まずはどんな内容が重要なのか、どのようにして体系的に理論・知識を習得するべきかは執筆を続けながら構成していく予定なので、本連載は不定期掲載になります。とりあえずの主眼としては、国際政治学・国際関係論という科目の「落とし穴・理解の罠・紛らわしいポイント・勘違いされがちな誤解」をメインに記事を更新していきます。
まずはじめに、簡単に筆者の自己紹介をしておきます。私は、高校はどちらかというと理系の科目選択をしていました。少し特殊なコースを通って英国の大学に進学し、今現在英国の大学学部の3年で国際関係学を学んでいます。ほぼ初学で、しかも英語で国際関係を学び始めた身なので、人並み以上に失敗をしてきたという自負があります。なので、本記事では、「何が分からないのか」という点を明確にしつつ国際政治学の知識を体系的に抽出して行きたいと考えています。よろしくお願いします。
対象読者としては中学生から大学学部生くらいまでを想定しています。役立ててもらえると幸いです。
国際政治学の堅苦しさ
まず、ここまで読んでいただいた皆さんに感謝を伝えたいです。導入部だけでも相当堅苦しい記述が多かったと思います。ここまで読んでくださった方の中には、硬すぎてすでにここから先を読む気が失せかけている人も多いでしょう。
しかし、ここからはできるだけ、必要以上に平易な表現、簡潔な記述を心掛けていきたいと思います。
国際政治をきちんと理解する上では、「ベースとなる知識+専門的理解」が必要になります。
まずはベースとなる出来事の歴史や基本的な理論的立場(そして時には、その論争)を頭に入れたうえで、専門的な議論に進むことが必要になります。なので、本シリーズの「入門」レベルでは、まずは大学一年生レベル要求程度の国際政治・国際関係の理解を身に着けることを目指し、「専門」レベルで大学四年~大学院レベルの理解を目指します。
国際政治「学」の基礎理解
まずは、「国際政治学」で使われる言語について、一番基礎となる理解をしていただきます。
ここでは初歩的なレベルから解説を始めていきますので、「政治」の定義や15世紀周辺の「国際関係のはじまり」については触れません。また、日本の国際関係の教科書が行うような世界大戦以降の歴史記述やグローバリゼーションの意義などについてもすっ飛ばして、「学問としての国際政治」の世界の基本を概観します。
歴史(戦間期・脱植民地期・冷戦期・21世紀)
国際政治学が取り扱う歴史は主に、戦間期以降になり、おおまかに四つの時期に分けられます。
・戦間期
戦間期は、現代の国際関係を語る上で一番大事な時期と言っても過言ではありません。「国際関係」という学問や研究領域は、19世紀~戦間期あたりが黎明期となっている制度や国際社会の慣習をベースとして形作られています。第一次世界大戦後のヨーロッパで一般的に認められ、採用されていた政治制度・社会経済構造・憲法・人道的道徳的思想などの多くがそのまま拡大・拡張されて現在の国際社会で用いられています。そういう理由で、多くの国際関係の講座では戦間期の歴史をざっとカリキュラムに取り入れています。
・脱植民地期
脱植民地期は、第二次世界大戦後、いわゆる「グローバル・サウス」の国々が相次いで独立していった時期の歴史であり、この時期についての知識なくしては何人も現代の国際関係を正しく俯瞰することはできません。例えば、現代でも問題になっている南北問題(経済レベルの格差・搾取)やグローバル・サウスの国々が先進国の経済成長の踏み台にされているという従属理論/世界システム論、アラブ圏やラテンアメリカ、東南アジアにおける民主化の成功/失敗など多岐にわたる問題が、脱植民地期の非同盟運動・連帯や植民地主義への抵抗といった問題と繋がっています。
・冷戦期
冷戦期は、主に軍事的・経済的・イデオロギー的な米ソ対立とそれに巻き込まれた二陣営の対立、そして第三世界で展開されたローカルな政治エリートたちの対立・紛争の歴史であり、二つの超大国のパワーバランスはそのまま現代の米ロ・米中関係などと言った主要な国際関係の構図に引き継がれているほか、第三世界で起こった軍事衝突が各地で今もくすぶり続け、様々な対立の火種となっていることは否めません。学問としても、この時期に起ったリアリズム的な国際システムの理解がベースとなり、現代の国際政治のパラダイムが数多く派生しているので、この時期に端を発したリアリズムとリベラリズムの対立、またはコンストラクティビズムの批判的視点などを勉強することも国際政治理解に大いに役立ちます。
・現代
21世紀は、つまりは現代政治や今ニュースが取り上げる国際情勢についての領域になります。9.11とアルカイダの与えた巨大なインパクト、冷戦時代の封じ込め政策が現代に残した米中対立の火種、各地で行われ続ける軍事紛争とPKO(国連等が行う平和維持活動)の成功や失敗。ネオリベラル制度主義的なグローバリゼーションの拡大とそのアンチテーゼとしての世界社会論などの広がり、「人間」に注目した安全保障を通して環境や社会といった観点を安全保障学に取り入れたコペンハーゲン学派の役割、コンストラクティビズム的な「あたらしい」国際システムの理解と、新たに生まれつつある国際社会の言説など、国際社会を分析する視点は多様化しつつあります。21世紀の国際政治学は、冷戦期の伝統的な学者さん方と違って、議論のトピックも視点もダイナミックに多様化しているので、見方によっては「一番難しい時代」と言えると思います。本シリーズでも、入門的なものから専門的なものまで含めて、丁寧に検討していこうと思います。
さて、ここまでお読みになられて、すでに、初学の人は相当息切れしているのではないでしょうか。あまりに広すぎる学問について簡潔にまとめるのは困難で、乱文になってしまってすみません。しかし、ここからは、国際関係においてもう一つ大事な側面、「理論」についてざっと目を通していきましょう。最低限、「理論」と『歴史」の二つの視点を獲得できていればいいと思うので、本記事では「地域」や「国際機関」「国際法」についてはとばして解説します。
国際関係「理論」
国際関係の理論については、歴史のように、「ここからここまで」という風に区切って並列で理解していただくのが適切なようには思いません。したがって、ここでは、ほぼすべての国際関係理論の始祖であるリアリズムについて入門的に記述しておきます。
・リアリズム
リアリズムの最も著名な著述家・研究者と言えば、私は、ケネス・ウォルツを思い浮かべますが、他にも、E.H.カーやハンス・モーゲンソー、ミアシャイマー、ロバート・ギルピンなどを思い浮かべる方もいるでしょう。古くは、古代ギリシャのトゥキュディデスや、より現代に近づくとホッブスや、マキャベリの3名も「リアリスト的な考え方に影響を及ぼした源流の思想家」と言うこともできます。ただし、この3人は、国際政治学における「リアリスト」ではありません。彼らの考えの幾ばくかはほかの学派にも受け継がれているので、この3人は「先祖」的なポジションだと思う方がいいかもしれません。
それでは、リアリストとは何者なのでしょうか。日本語に訳すと、「現実主義者」となりますね。しかし、ただ「貯金を多くするサラリーマン」というような意味ではなく、リアリストは、徹底的に現実的に、軍事的な観点から見る自国の生き残り・安全を最優先事項としてみなす学派です。国際政治は「確実な協力」が不可能な権力と恐怖のゼロ・サム・ゲームであり、勢力均衡の中で基本的に国々は安全保障や同盟のジレンマに怯えながら生存しています。
それぞれの学者が微妙に異なることを主張し、それぞれ「防衛的/攻撃的リアリズム」に分類されたり、それぞれに名著があったりしますが、ここでは、ケネス・ウォルツの国際システム論と、その著書『国際政治の理論』を紹介しておきます。
ウォルツによれば、国際システムは、完全なる無秩序であり、その中で、一極・二極・多極の国際システムが存在しうると言います。そんな中で、「覇権」を握っている一極なり二極なりの国に追随しながら自国の生存を目指すというのがウォルツの国際関係理解になります。これは、「国々は経済協力により平和になれる」という「リベラリズム」を思いっきり批判するような内容です。
なぜこのリアリズムが評価されたのかというと、この考え方は冷戦時代においてとても役立ったからです。ちなみに、国際連盟や国際連合の元になったウッドロー・ウィルソンの考え方などは、どちらかというとリベラリズムよりでしたね。他にも、国際関係理論というと、規範とそれを作り出す言説に注目し、各国民の国民主義やアイデンティティーなどにも敬意を払い「(間)主観性」を重視するコンストラクティビズムや、(ネオ)マルクス主義や人種理論、フランクフルト学派、ジェンダー理論やポストコロニアリズムなどが存在しますので、おいおい解説していきます。
いずれにせよ、国際関係理論の始祖はリアリズムと、それと対になるリベラリズムだということができます。現在では、リアリズム(とリベラリズムの合体)が「基礎」としてもはや暗黙の了解のように理解され、ネオリベラル制度主義やコンストラクティビズムが盛り上がりを見せつつあると言えます。
まとめ
今回は、もっとも基礎的で入門となるような「国際政治学」の論点をまとめました。
「政治」の起源について、まずは少し見ました。国際政治は古代ギリシャのトゥキュディデスの時代に既に始まっていましたが、実際に国際法や国際システムが機能しだしたのは中世ヨーロッパの影響を受けた19世紀ヨーロッパでした。次に、「戦間期・脱植民地期・冷戦期・現代」の四つの歴史的区分を確認しました。第一次・第二次大戦を経て、植民地の独立運動がおこり、ヨーロッパで採られていた植民地政策はもはや過去のものとなります。それと時を同じくして20世紀後半は冷戦の時代になり、ローカルな政治を巻き込んで、朝鮮戦争・ベトナム戦争・キューバ危機などに代表される米ソ対立の二極構造が発生します。そして冷戦も集結しますが、その後もテロとの戦いやロシアの領土的野心、気候変動や環境問題など、国際政治の議論する問題は終わりません。
そんな中で、「リアリズム」を基本とする様々な学問的パラダイムの発生についても見ていきました。リアリズム・リベラリズム・コンストラクティビズムといった学派の人々が、どのようにして歴史的知見から理論を作り出し、どのような論争が起こり、どのような政治が様々な地域・歴史の中で展開されていったのかをこれからの投稿では見ていきたいと思います。
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参考文献:
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